「自由が丘の家」が出来上がるまで
こんなストーリーがありました。
このストーリーは1通のメールから始まりました。
「住宅の新築を考えているが、プロセスを教えてほしい。」と。
詳しいことは全く書かれていませんでしたが、
それからメールのやりとりが始まりました。
そして、お宅におじゃまさせていただくことになりました。
お客さまのご要望は 
「一家だんらんの家」
「幼い3人の子どもたちに目が行き届く広いLDK」
「1階にLDK」
「木の温もりが感じられる家」
それから約3週間ほどで図面と模型をつくりました。
(これをプロポーザル案と呼んでいます)
この3週間はプレッシャーのかかる時間との戦いです。
また、逆に最もクリエイティブに頭を働かせることができるので、
建築家にとって、至福の時でもあります。
お客さまの言葉を何度も反芻し、また、敷地の様子やご家族の顔を思い浮かべながら、
案を作成しました。(下の写真はプロポーザル案で作成した模型)
幸運にもプロポーザル案を、お客さまはたいへん気に入ってくれました。
むしろ、迷いが生じたのは私のほうです。
案をつくる勢いのなかで柱が弧を描く形態とした
のですが、本当に実現可能だろうか?
心のなかにあった、そんな不安から
柱がまっすぐになった、全く別の絵を描き、
次の打ち合わせでお客様のところへ持っていって
しまったのです。
お客さまは一言ぽつりと・・・
「前の案のほうがロマンがあった。」
それはいつのまにか、安易な方向に流れようとしていた
自分に対する叱咤であり、激励でもあったのです。
私はこの言葉に、たいへん感謝するとともに、このご家族のために、
なんとしてでも納得していただける、すばらしい家を設計し、完成させるぞ、と
思いを強くしました。
CGを描いたり、模型を作ったりしながら、イメージを
お客さまと確認しながら、図面を描き続けました。
このお客さまのために絵を描きたい、という思いが
強いほど、こちらの時に大胆な提案も、すんなりと
受け入れていただけるという、相思相愛の関係が
不思議と成立します。
そうして設計図が完成し、建築確認申請も許可が
おりました。
施工業者の選定に関しては、お客さまよりご紹介いただいた地元の工務店、
目黒区高橋建設と、私どものほうでご紹介したところの2社の入札をしました。
結果、高橋建設に工事を請け負っていただくことになりました。
既存家屋の解体が始まると、お客さまにとっては
どこか、さびしい気分と、もう後には引けぬという覚悟、
それに加え、あの新しい建物がここに建つ!という期待が
複雑に交差するのだと思います。
地鎮祭も無事済ませ、いよいよ工事着工です。
弧を描く柱は全長7mあまりあるのですが、これを加工
できる工場は長野県の1社しかないため、トレーラーで
運びこみました。
骨組みは恐竜の骨格のように迫力があります。
ご近所の方からは「体育館でも建つのですか?」
との声も (^^;)
骨組みが完成すれば上棟式。
お客さまから職人さんの労をねぎらっていただき、
また、これから始まる内装工事に向け、よろしく
頼むと、温かいおもてなしをいただきました。
屋根工事、外壁工事、防水工事といった外回りの工事が
進みます。
毎週必ず、いやそれ以上、足を現場に運んで、職人さん
からの質問に答えます。
「ここはこう納めたほうがいい」 そんな職人さんからの
提案にも耳を傾けながら、最善の解としていきます。
大工さんにとって、とても面倒な(手の込んだ)納まりも
ときに、お願いすることになります。
しかし、そんなことも、むしろ大工さんのほうから
提案してくれるのです。
「この建物だったら、これぐらいがんばらないと。」
現場で働く職人さんが、皆、この建物だけは特別、
そう思ってもらえることが、なにより大切なのです。
数をこなす仕事ではなく、
特別に思い入れのある仕事。
お客さまと悩みに悩んで、アイデアをいっぱい詰め
込んだ建物は、職人さんにも、そんな思いを
もってもらえるのです。
そしてはれて完成。
最後のチェックをして、お客さまの最終確認に備えます。
建物を引き渡す前夜、建築家は実はとても複雑な気分になります。
工事中はいわば、「自分の建物」という愛着をもって丹念に気を配ってきたものが、
明日、嫁入り。
なんだか、とても寂しくなるのです・・・・
それ以降、少なくとも毎年夏には、家の具合は
どうですか?とおじゃまします。
検査ではありますが、むしろ、遊びにきてください、
と声をかけていただき、家族ぐるみでお茶に
招かれている、そんな関係が続いています。